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感覚ってときたま伝染するよね

人の見る世界を知るには、その人にチューニングを合わせてしまえばいい。ただ、人の世界を感じることは、ときに危険を伴うのではないか。

先日、あり得ないくらいにチューニングが合ってしまったことがあった。

師匠と対峙する。私は普通に、自らの状況を話す。私が話すうちに、その場の空気に、私の纏っているものが転写される。転写されたものは師匠に入り込む。師匠はこのところ、私と対峙すると、眠いような感じに襲われるという。頭が働かないような、頭が重いような感じがするという。

師匠が語るところのその感じは、朝、窓を開けて、窓の外の一点を見つめながら、呆然としている私の状態に似ているような気がした。続けて構わないというので、話を続ける。私は、話しながらも師匠を観察する。その様子は、時間が圧縮されているときの私にとても似ている。

師匠が聞いていなさそうな感じだったので、私は話を止めて師匠に尋ねる。師匠は「聞いていないことはないけども、処理されていない。どうでもいい気がしてきた。もう診察終了にしていい?」とか言いやがるので、それはあんまりだろうと抗議する。師匠は続けた「これは、眠いのとは少し違う。頭に靄がかかったような感じ。呼吸もどことなく苦しい。手足も重いね、ほら、これだけ動かすのがけっこう大変」

師匠はそう言いつつも、手以外を全く動かそうとしない。多分この感じは、最近私が入り込んでしまっている状態が伝染したのではないかと思う。私は「師匠、多分その手足の感じを、感覚的に言語化したら、この間話していた Jelly になる」と言った。

「そうねぇ、確かにそんな感じかもしれない」師匠はそう言いつつ、その状態から戻ってこない。こっちとは時間の流れ方が違うから、のんきにいられるんだろう…とか思っていたら、突然に「うーん、この状態は、辛くはないけど、面白くないね。平坦すぎて。そのせいで妙なしんどさがある」と、師匠が言う。面白くないくせにいつまで経っても戻ってこないので、かちーんときてノートを投げつけた。「うわ!なにすんのいきなり」師匠が抗議の声を上げるが、無視してノートを拾う。

椅子に座り直したところで、私は「その状態に恒常的に入り込まれてしまったら、私が困るからです。朝『だりー』とか言って固まって、病院来なくなったら、私にどうしろと?」と言った。師匠は笑いながら「それはないそれはない。合わせようとしないと入り込まない。ほらだって今はさっきの感覚とは全然違う」とか言うが、私の頭からは疑いが抜けない。

全くその感覚を知らないのと、一度でもその感覚を知ったのとでは、その状態に陥るときの抵抗が全然違う。後者が再度その状態に陥るのは、比較的容易ではないかと、私は考える。そこで私はお節介にも「ちゃんとシールドしてください」と言ってしまい、笑われるのだ。

師匠と対峙するとき、私は外界に対して開いた状態、すなわち無防備な状態であると思う。私から発される何かは、なんの障害もなく空気に溶け込む。一方で師匠は、私を知るために、ある程度彼を開いた状態に保つ1 このように、お互いに開いている状態では、感覚は容易に伝染する。それは守られた状況下だからこそ起こるし、師匠は意図的に感覚の伝染を受け入れるのだろう。

ところで、緊張や警戒が強いられる状況下ではそれは起こりにくい。私はそこ以外では常にシールドを張り巡らせているし、他の人もシールドを張り巡らせているから、感覚の伝染は起こりにくいことは分かっている。しかし、感覚が伝染するという現象を体験として知っているからこそ、私は、迂闊に人に心を向けるようなことはしてはいけないと思うのだ。

なぜならば、私には、伝染した他人の感覚から脱し、自分の本来の感覚に戻るというスキルがないからである。いや、正確に言えばやり方は知っているけども、それに見合うエネルギーの供給源がないのだ。 (→ Spherical-moss.net » 視点の変化)

Footnotes

行頭の数字は本文中の注釈番号に対応さしてます。

  1. 師匠の開き具合が、私の状態や状況によって違うのは、視覚的に感じるので何となく分かる。重大な話を聞くとき、師匠の外壁はひとまわりほど堅牢になる。 Back

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