- 2008-02-01 (金)
- Category: 書籍
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チーム・バチスタの栄光
海堂 尊 / 宝島社文庫
最近すごく話題になっていて、面白いと評判だったので読んでみた。
ネタバレをなるべく避けるように頑張ったけど、やっぱり核心に触れているような気もするので未読の方はご注意をば。
東城大学医学部附属病院の “チーム・バチスタ” は心臓移植の代替手術であるバチスタ手術専門の天才外科チーム。ところが原因不明の連続術中死が発生。高階病院長は万年講師で不定愁訴外来の田口医師に内部調査を依頼する。医療過誤死か殺人か。田口の聞き取り調査が始まった…… (上巻裏表紙より引用)
ワトソンとホームズ
主人公、田口は、医者のくせに手術のことを全然知らない。それなのに連続術中死の原因を調査するように院長に依頼される。設定的には医者であるが、立場的には、我々一般読者と大して変わらない感じの、頼りない素人探偵。頼りない素人探偵は、よく分からないなりにも事件を探っていく。
そして、途中から合流する玄人探偵、白鳥。ものすごくマイペースな変人。行動がいちいちエキセントリックで、思考回路も独特のものを持っている。回転は早いが突飛すぎて誰もついていけない。主人公も関係者も、完全に白鳥のペースに巻き込まれ、翻弄される。
この小説は、全編を通じて心理戦の色が強い。田口は淡々と、相手のペースで聞き取り調査をする。一方で、白鳥の聴取は攻撃的で押しが強い。相手がどうであろうと、とにかく彼のペースで状況が動く。対照的なふたりの探偵役。ワトソンとホームズみたいだ、と思った。
白鳥の勢いの後押しされて、彼が合流してから、物語がものすごいスピードで展開する。白鳥のペースに私までもが巻き込まれる。
私、ミステリだとたいていそうなんですけどね、ラストが予想できなかった。伏線はとても丁寧に張られていた。私は確かにそれを読んでいたはずなのに、やられた。「知らない」ゆえに私はそれを予想できなかった。田口もそれを予想できなかった。白鳥だけが予想していた。
物語の謎解きをするだけなら、白鳥がいれば十分だった。しかし、この物語の成立にとっては、田口という存在は必要不可欠なのだと思う。白鳥はあまりに切れすぎる。読者は、彼の思考にはついていけない。読者は、医者のくせに素人同然の田口の目線で、物語に入り込むのだ。そして、彼と同じように間違える。
ワトソンとホームズだ。そう思った。最後に読んでから、もう何年も経っているけど、真っ先にそれを連想した。古典的なミステリの形。そう思った。
人物描写がすごい
ミステリーであり、登場人物がかなり多い。そうなると人物像が薄っぺらいことが多いのだけど、これは違った。登場人物ひとりひとりの内面がすごく細かく描かれている。私とは全然異なる人物、どこか似た人物、いろいろなタイプの人間が描かれており、それぞれの内面や心情に対し、うんうん、と頷きながら読むことができた。
いつ、どこで目にした言葉か忘れてしまったけど、「人を知るには、その人が何に怒るかを知ればよい」という言葉を見たことがある。そのシンプルな仕組みが、心理戦で生きていた。普通の状態では絶対に見えてこない、防衛の内側にあるもの。白鳥がそれを次々破壊していくのは、爽快でさえあった。
医療問題と生命の軽重
原因不明の連続術中死の真相解明の裏にあるテーマは、疲弊しきった日本の医療の現状。マンパワーの問題。制度的な問題。それでも日常業務をこなさざるを得ない現状。「これじゃあ、医者も壊れるぜ」そういうことだろうな、多分。
私は、そう言った人物の心情に、一番共感してしまったのだけど。そこいらじゅうが矛盾だらけで割り切れない。我々が生きているのは、全て平等に、死に至る生。救われる命がある。その瞬間、失われる命がある。必死の努力で救われる命がある。一方で、誰にも省みられることのない命がある。死に至る生は平等であるのに、命の機会は平等じゃない。そんなことを思った。
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