解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理
柴山雅俊(著)/ちくま新書
この病に関する本は、一般向けのものがほとんど出ていない。何冊かタイトルは知っていたものの、ほとんどが専門家向けの本で、お世辞にも取っつきやすいとは言えなかった。1 この本は新書で値段的にも厚さ的にも手に取りやすいので、この病を知りたい人が、とりあえず読んでみるにはオススメだと思う。
第1章 解離性障害とはどういうものか
第2章 解離以前の体験
第3章 彼女たち(彼ら)はどのように感じているか
第4章 解離の構造
第5章 外傷体験は解離にどのような影響を与えるか
第6章 解離の周辺
第7章 解離とこころ
第8章 解離への治療的接近
この本をざっと最後まで読んでユニークだと思ったのは、外から見た場合に特徴的であり、よく話題にされてきた「健忘」「同一性混乱」「同一性変容」の部分に関しては、《五つの中核的な解離症状》の一部として挙げておきながらも、その後の部分ではほとんど触れていないことだ。一方で、内から見た場合、四六時中つきまとっている感覚「離人」「疎隔」にページのほとんどを割いている。
前書きの部分で著者自身が《本書が従来の解離の解説書と異なった特色をもつとすれば、解離の世界を主観的な視点から、つまり患者自身の視点から彼女たち(彼ら)の体験世界を具体的に描き出したことである》と書いていることもあり、あくまで当事者の目線に寄り添った本だと思う。この病の全貌(症状や理論的なものを含めて)を理解したい人は、これを読んでから他の本とがっつり格闘することをオススメしたい。
著者が観察した症例や、この病の当事者の体験談に対し、筆者の解釈を添える形で書かれている。第1章から第5章まで、私自身が当事者だということもあり、あまりの再現性にくらくらした。何故そこまで私のことを知っているのだ、何故そこまで私の見ている世界を忠実に再現しているのだ、というのが素直な感想である。私自身の体験と厳密には一致しない部分も当然あるのだが、それでも驚いた。
著者は前書きで《本書は一般向けではあるが、私自身の気持ちとしては解離の病態に苦しんでいる人たちに向けて書いたつもりである》と書いているが、ここまできれいになぞられると、当事者が読むにはきつい部分も多くあるのではないかと思う。2
キーワードだけでもここに挙げてみようと思ったが、きれいになぞりすぎていてどこを抜き書きしていいのか分からない。というか全部抜き書きしないとなぞれないような気がしたのでやめた。
内側からの視点として第1章から第5章までが興味深いが、個人的には、それ以降の章の方が知識として目新しい感じがした。
第5章では《外傷体験は解離にどのような影響を与えるか》として、解離の患者の生育歴に焦点を当てている。両親の不仲、離婚、両親からの虐待、学校でのいじめ等が「安全にいられる居場所の喪失」に結びつき、これらが解離を発生させ、憎悪させるとしている。一方で、解離の患者が小児期にしやすい体験として、持続的な空想、想像上の友人、表象と知覚の混同傾向などが挙げられている。一見、外傷の結果がこれらの体験であるかのようにも思えるが、どちらが時間的に先行するかは断定できないと筆者は述べる。
余談だが、この章の中で、筆者が《PTSDにみられる戦争体験、自然災害、犯罪被害、事故、性暴力と比較すると心の傷という点では共通しているが、外傷の性質としては異なっている》とわざわざ書いていることも興味深い。
第6章では《解離の周辺》として、症状が共通している病や、患者の主観的な訴えの細かいニュアンスまで汲み取らないと誤診しやすい病などを挙げている。境界性パーソナリティ障害、気分障害、統合失調症、摂食障害との類似点および異なる点を挙げ、診断をつけることの重要性について書いている。こういうのを読むと、診断をつけるのは職人芸であるなぁと思う。一般人が区別することなんてまず不可能なのでお茶請け程度に。
第8章では《解離への治療的接近》として、著者の治療戦略的なものが記載されている。とりあえず、自分がこれまで治療されてきた経験をなぞらえて読んだところ、ああ、そういうこともあったなぁと思い当たる部分が多くあった。回復した患者の言葉や、治療関係の方向性が提示されることもあり、脳みそが不穏にざわざわする部分が多いこの本の中では、わりと穏やかな気持ちで読める章だと思う。3
第2章の途中に哲学者の言葉が挿入されたり、第7章すべてを割いて宮沢賢治の表現が取り上げられたりと、直感的な理解が難しい部分もあったが、このあたりはとりあえず字面をなぞるだけにした。一生懸命理解しなくてもあまり差し支えないように思う。著者の趣味ということにして勝手に納得した私である(←ヲイ
先に書いたことに戻るが、今まさに治療を受けている当事者から見て、体験をよく再現した本だと思う。ただし、症状や理論的なものを含めて深く理解したい人には、もっと分厚い専門書と格闘することをオススメする。
Footnotes
行頭の数字は本文中の注釈番号に対応さしてます。
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