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世界はJellyに包まれて

波の気配を感じる。

こっち側と向こう側を区切る膜のようなものが、二人の間にある。向こう側からこっち側を見る私と、こっち側から向こう側を見る私がいる。

私たちは同時に存在しているようで、別人のようでもある。こっち側の私は向こう側の私を見ていない。向こう側の私は、こっち側の私を見ていない。向こう側の私が見るのは、こっち側の世界で、こっち側の私が見るのは、向こう側の世界。反対側の世界と、私との関わりを、ただ、観察する。

時間は圧縮されて、線ではなく、点になり、粘性を持ち、身体にまとわりつく。始まりと終わりが、あるようでないようで、私はその中ではただ、呆けたように、身じろぎせずに、時間の圧縮が解けるまで、ただひたすらに待つしかなくて。どれだけ待ったのか、分からない。圧縮された時間は、進まない。

その間、ただ一点を見つめる。その一点に、時間も、音も、全部のものが、全部の感覚が、ただ吸い込まれて、ぐちゃぐちゃになる。それを呆然と見ている。何の感傷もない。見ている私とは無関係に、その一点に吸い込まれていく。あそこには渦があるな、と思う。

吸い込まれたものはどうなるんだろう、と思う。

いつの間にか、圧縮された時間がほんの少し動き出していた。私も、のろのろと、動きだす。身体が重いような気がする。空気がまとわりつくような感じがする。空気?そんな可愛いもんじゃないな、と思う。もっと重い、粘性の高い液体。違うな、固体かも知れない。なんだか中途半端な、Jelly状の空気が、私の身体にまとわりついている。私と、周りの全てのものの間の、全ての空間に満ちている。

Jellyの向こう側にあるものたちはとてもとても遠くて、手を伸ばしても、近づいてこないような気がして、手を伸ばすことを諦める。そういえばJellyのせいで、私の身体もどこか歪んでいるのかもしれない。だぶだぶの皮膚。ぶよぶよの筋肉。長すぎたり短すぎたり、歪だったりする骨格。何だろうこれは。起きていながらこういう夢を見る。目をぎゅっとつぶって、祈るような気持ちで目を開けてみても、覚めない夢。

Jellyのこちら側にいる私。Jellyの向こう側にいるあなた。私はあなたを、ちゃんと知らない。

目に映る全てのものは、緩慢なようでいて、急速なようでもあって、私は入ってくる情報を処理しきれず、こぼれ落ちた情報は、私の知らないところで像になって、障害物となって、突然目の前にあらわれる。間に合わない。どこか遠くで、痛みが走ったような気がする。やっと、情報がこぼれ落ちていたことに気づく。どこが痛むんだろう。よく分からない。ただ痛いということだけが何となく分かる。それが精一杯。

目が覚めたら、ぎらぎらするむき出しの世界がそこにあって、心のどこか奥底の方で、子どもが楽しそうに歌う声が聞こえる。まとわりついていたJellyのような空気はいつの間にかなくて、ただ鋭い空間だけがそこにあって。全部が眩しくて目が痛くなった。色を見ても光を見ても、強すぎて逃げ出したくなった。身体が悲鳴をあげるのが分かる。痛くはない、けれど痛みに似た感じが、体中を貫くような気がする。

私はこんなに痛いのに、それでも子どもは、どこかで楽しそうに歌っている。子どもの空間で、伸びやかな声で歌って、色々なものに触れて、驚いてみたり、喜んでみたりしている。私はこんなに痛い思いをしているのに。小憎たらしい。頭の後ろで、チリチリと、火花に似たような、苛立ちと嫉妬が混ざったような、とげとげした塊が生まれて、小さな隙間を圧迫する。

私は、お互いに、聞こえもしないのに、もう一人に問いかける。ずっとずっと問いかけている。いつだって、声は返ってこない。だってそこには誰もいない。

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